序章
「うわっ、懐かしー!」
一人暮らしを始めた私の元に送られてきた段ボール。実用品や保存食で溢れかえるその箱の一角に、プチプチで厳重に包まれたそれはあった。一見映写機にも見えるそれは8ミリフィルム、というやつだ。今では耳にすることもなくなってしまったが……ビデオカメラのさらにそのご先祖様のような存在と言えば分かりやすいだろうか。名実ともに古ぼけたそれは、私の祖父が愛用していたものをそのまま譲り受けたのだった。
そういえば、譲り受けたものの一度も使用して見たことはなかった。まだ使えるのか不安ではあるが、試してみればいい。そう思った私は8ミリフィルムだけを手に家を出たのだった。
……。そう、それが2時間程前の話だ。
意気揚々と外に繰り出した私は都会の見慣れた景色ではなく「せっかくならレトロなフィルムに似合いの景色を!」などと、全く知らない細道をずんずん進んでいったのだった。
知らなかった。東京にも田んぼってあるんだなぁ…。ここどこだろう……。
たしかに似合いの景色は発見できたが、その代償に自分を見失ってしまうとは。カッコよくいってもダメか、迷子です。迷子。
グー○ル先生に助けを求めようとズボンのポケットに手を伸ばして気付く。あ。スマホ、家で充電したまんまだったわ……。
途方に暮れるとはこういうことを言うのかもしれない。さらに悪いことに、もう日も暮れそうである。「最悪の場合このまま野宿」などという嫌な想像を振り払い、気を紛らわすためにも当初の目的であった8ミリフィルムをのぞき込みながら再び歩き始めた___。
その壱へすすむ