Art Exhibition Review


地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング

Paul Klee at Picasso exhibition

この展覧会について

2020年以降、目に見えないウイルスによって日常が奪われ、私たちの生活や心境は大きく変化しました。こうした状況下、現代アートを含むさまざまな芸術表現が、かつてない切実さで心に響きます。本展では、パンデミック以降の新しい時代をいかに生きるのか、心身ともに健康である「ウェルビーイング」とは何か、を現代アートに込められた多様な視点を通して考えます。自然と人間、個人と社会、家族、繰り返される日常、精神世界、生と死など、生や実存に結びつく主題の作品が「よく生きる」ことへの考察を促します。

また、本展では、美術館ならではのリアルな空間での体験を重視し、インスタレーション、彫刻、映像、写真、絵画など、国内外のアーティスト16名による約140点の作品を紹介します。五感を研ぎ澄ませ、作品の素材やスケールを体感しながらアートと向き合うことは、他者や社会から与えられるのではない、自分自身にとってのウェルビーイング、すなわち「よく生きる」ことについて考えるきっかけになることでしょう。 本展のタイトル「地球がまわる音を聴く」は、オノ・ヨーコのインストラクション・アート(*1)から引用しています。意識を壮大な宇宙へと誘い、私たちがその営みの一部に過ぎないことを想像させ、新たな思索へと導いてくれるものです。パンデミック以降の世界において、人間の生を本質的に問い直そうとするとき、こうした想像力こそが私たちに未来の可能性を示してくれるのではないでしょうか。

鑑賞レポート

タイトルの「ウェルビーイング(wellbeing)」とは、身体的・精神的に健康であり、社会的にも良好な状態にあることを意味する言葉である。

作者それぞれでさまざまなメッセージが込められており、エネルギッシュな作品が満載の現代アート展。花粉や蜜蝋など自然のものをシンプルな作品からDVを扱ったセンシティブな作品、宗教的・伝統的な精神世界をテーマにした作品など、エリアごとに様々な作品が展示されており、エリアごとのテーマに沿って考えさせられた。作品を見ることで心の中が大きく動かされたのは初めての経験だったため、非常に興味深い展示だった。


ギド・ファン・デア・ウェルヴェ
ギド・ファン・デア・ウェルヴェ

特に、印象に残っているのは、オランダ出身の作家、ギド・ファン・デア・ウェルヴェ。《第9番 世界と一緒に回らなかった日》(2007)は、作者が北極点にて地球の自転と反対向きに少しずつ回り続けるパフォーマンスを記録したタイムラプス映像である。タイトルの面白さに惹かれ、作品を見ると一面雪に覆われた北極点で携帯も触らず、食べ物も口にせず、立っているただ一人の男性がいる。タイムラプス映像であるため、動画は数分で終わってしまうが、その中には、彼の過ごした過酷な24時間が詰まっている。タイトルから感じられるユーモアと「北極点に24時間立ち続ける」という過酷さがよいコントラストになっており、魅力的だった。このほかにも、10時間にわたってベッドに飛び込む、浴槽に入るという動作を続けるなど身体を極限的に使ったパフォーマンス映像作品が展示されており、独特の詩情とユーモアが感じられた。

地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング

会場 森美術館
会期 2022年6月29日(水)~11月6日(日)
休館日 会期中無休
開館時間 10:00~22:00
サイトURL https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/earth/index.html